食料自給率
【脆弱なシーレーン】
・国民の生き死にに関わる第1次産業に係る政策は、国としての在り方にかかわる政策でもあります。昨今、農協改革が叫ばれ農業に関する問題提起がなされているところです。私の立場は第1次産業、特に農業・漁業については「食料安全保障」の観点から、必ずしも経済原理を当てはめる必要はなく、できるだけしっかりと食料自給率を高め、確保していくべきという立場です。
・先般8月9日、農水省が発表した2016年度の食料自給率(カロリーベース)は38パーセント、過去2番目の低さとなったそうです。食料自給率の算出方法は様々でありカロリーベース算出が全てではありませんが、低下の傾向にあることは間違いないでしょう。
・普段、普通の生活をしているとなかなか気づかないかもしれませんが、日本は四面環海の島国です。多くのものを輸入に頼って生活しています。そしてものの大部分は海路、いわゆるシーレーンによって運ばれてきます。このシーレーン、空気や水のように享受されているかもしれませんがタダではありませんし、意外と脆弱です。
・著名な歴史・政治学者である中西輝政氏がその著書で述べているように、第1次大戦中、島国英国(島国といっても日本に比して大陸に近接していますが)はシーレーンがやられて悲惨な体験をしたそうです。文字通り食料がなくなり庶民は革靴を湯がいて食べるほどだったようです。「当時のイギリスは、いまの日本と同じように食料自給率が低く、30数%でした。天下の大英帝国ですから、平和なときであれば小麦はカナダ、(略)などから輸入すれば、どの国からも手に入る。それが慢心を生んだのです。『国内では何も農産物を作らなくてもよい、工場と株の取引所があれば十分』と考え、食料自給を怠ったのです。結果として自給率が激減し、国民が飢えに苦しむこととなった。そして、この第1次世界大戦の経験からイギリスはその後、食料自給率の向上ということを国策にして、いまでは80%の自給率になったのです」(中西輝政「日本字が知らない世界と日本の見方」PHP 2011年)
東日本大震災を経験された方は、流通が途絶えるとどういうことが起こるか、十分に誤認識されておられると思います。
【政府の政策】
・さて今の政府与党の農業・漁業政策ですが、真剣に食料自給率を上げるといった熱意が見られないように思えます。先の第193回国会において農業関連8法案が可決されました。審議や報道も十分でなくあまり知られていませんが、外資の参入を促進するなど経済原理に基づいて考えられたとしか思えない内容も含まれています。自由な競争を促し、効率を上げて収穫量を増加させる、といった趣旨でしょう。「収穫量を増加させる」ことには大賛成ですが、その方法はあまりにもリスクが大きく賛成する気にはなれません。
・ここは、地味でオーソドックスかもしれませんが、しっかりと農業を守っていく、といったアプローチをとるべきだと思います。民主党政権時におこなっていた「個別保障制度」の復活は基本、農業に従事する若者もしっかりと国がフォローしていくべきだと考えます。
・生産者を保護する一方、流通、販売においては変革が必要かもしれません。